【歴史】戦火のベルリン動物園。浴室でかくまわれたハシビロコウの「真実と謎」

ネットや歴史資料で時折見かける、白黒の不思議な写真をご存知でしょうか。 タイル張りのアパートの浴室、水が張られたバスタブ、そしてその傍らにたたずむ一羽のハシビロコウに、女性が手から何かを与えている一枚です。

合成のようにも見えるこの写真は、第二次世界大戦中のベルリン動物園周辺で実際に撮影された、奇跡と執念の記録です。

今回は、当サイト「となりのハシビロコウ」特別編として、戦火の中でハシビロコウを守り抜いた飼育員家族の物語を、「歴史的な事実」と「謎に包まれたその後の運命」に分けて紐解いていきます。

目次

ベルリン大空襲と「91頭の生存者」

まずは、公式な歴史記録として残っている「事実」から見ていきましょう。

物語の舞台は1943年11月。第二次世界大戦末期、連合国軍によるベルリン大空襲により、ベルリン動物園は壊滅的な打撃を受けました。 園内にいた約3,700頭の動物のうち、生き残ったのはわずか「91頭」。大半の動物が爆風やショックで命を落とす絶望的な状況でした。

施設が破壊される中、飼育員たちは生き残った動物を守るために奔走します。 たとえば、行き場を失ったコビトカバは、なんと近隣のSバーン(都市高速鉄道)の駅の男子トイレに緊急避難したという公式記録も残されています。水辺の生き物にとって、タイル張りで水が使える場所は唯一の命綱だったのです。

浴室への避難と「馬肉」での飼育

そんな中、1934年から飼育されていたハシビロコウも奇跡的に生き延びていました。 ベテラン鳥類飼育係のハインリヒ・シュヴァルツ氏は、この貴重な鳥を自宅アパートの浴室へ連れ帰り、家族でかくまう決断をします。

写真に写っているのは、シュヴァルツ氏の娘であるエリザベート氏ら家族の姿です。

戦時下のベルリンで、ハシビロコウの主食である「新鮮な生魚」が手に入るはずもありません。そこで家族は、手に入る馬肉を細かく刻み、必死に給餌を続けて命を繋ぎました。これも確かな事実として記録されています。

なぜバスタブに水を張っていたのか?

写真を見ると、バスタブには水(またはお湯)が張られています。これについては、当時の飼育員の意図を汲み取った「合理的な推測」がなされています。

大型の水鳥を室内で飼う上で、排泄物の処理などがしやすい「浴室」が選ばれたのは物理的な必然でした。しかしそれに加え、「ハシビロコウの足の皮膚を乾燥から守るためだった」という見方が有力です。

ハシビロコウは足が乾燥するとひび割れや深刻な皮膚炎(趾瘤症など)を起こしやすいため、バスタブで常に足元を湿らせていたと考えられます。物資のない極限状態でも、プロとして最善のケアを尽くしていたことがうかがえます。

ハシビロコウはその後どうなったのか?

さて、このハシビロコウは無事に戦争を生き延びたのでしょうか? ここからは、「確かな事実」と「歴史のベールに包まれた謎」が交差します。

事実として言えること:終戦までは生きていた
1945年5月の終戦時、ベルリン動物園がまとめた「91頭の生き残りリスト」の中には、カバのクナウチュケなどと共に、「1羽のハシビロコウ」が明確に記載されています。つまり、浴室での懸命な世話の甲斐あって、過酷なベルリン市街戦を生き延びたのは間違いありません。

謎に包まれていること:戦後の展示記録がない
しかし、その後の彼(彼女)が再び動物園でスターとして展示されたという明確な記録は残っていません。 戦後のベルリンはインフラが崩壊し、人間の食べるものすら事欠く「極端な食糧難」に陥りました。馬肉すら手に入らない戦後の混乱期の中で、毎日大量の魚を必要とするハシビロコウを活かし続けるのは、戦時中以上に困難だったはずです。

おそらく、戦後の厳しい環境の中で、ひっそりとその命を全うしたのではないかと推測されています。

おわりに:写真が伝える「命への執念」

最終的な最期がどうであれ、この一枚の写真の価値が揺らぐことはありません。

絶望的な戦火の中で、自らの生活空間である浴室を開放し、馬肉を刻んで一羽の鳥の命を繋ごうとした飼育員家族がいたこと。そして、そのおかげで終戦という区切りまで確かに命が繋がれたこと。

動物園で静かにたたずむハシビロコウたちを見るたび、このベルリンの浴室での出来事と、動物の命を守り抜こうとした人々の情熱を思い出さずにはいられません。

🔍 なぜバスタブが必要だったの?ハシビロコウの不思議な生態

記事の中で触れた「足の乾燥を防ぐためのバスタブ」エピソード。そもそも、ハシビロコウは普段どんな環境で暮らし、なぜあんなにデリケートなのでしょうか? 「動かない鳥」として有名な彼らですが、実は野生での狩りのスタイルや、コミュニケーションの方法など、知れば知るほど面白い生態が隠されています。 馬肉で命を繋いだ彼らの、本来の好物や野生での暮らしぶりについて詳しく解説します。

✈️ 世界のハシビロコウに会いに行こう!

今回の舞台となったドイツをはじめ、実は海外にもハシビロコウに出会える動物園がいくつか存在します。 日本国内の動物園とはまた違った展示環境や、広々とした空間で過ごす彼らの姿は一見の価値あり!海外旅行の計画に「ハシビロコウ詣で」を組み込んでみませんか? 世界のどこで彼らに会えるのか、気になる最新の展示情報をまとめました。

参考文献・情報出典

  • Gemeinschaft der Förderer von Tierpark Berlin und Zoologischem Garten Berlin e.V. (『TAKIN』 Heft 2/2020)
  • DER SPIEGEL (”Historische Zoo-Stars”)
  • Cornelius Ryan 著『最後の100日(The Last Battle)』(1966年)

※本記事はベルリン動物園の公式アーカイブに基づく事実と、戦後の記録状況に基づく推測を交えて構成しています。

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この記事を書いた人

ハシビロコウを追い続ける、一児のパパ。出張や家族旅行の合間に各地の動物園を巡るのがマイルール。 2025年には息子を連れてウガンダへ野生観察に行きました。 イベント情報から海外情報まで、幅広いハシビロコウについての情報を発信します。

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