【世界初の快挙】ハシビロコウ繁殖の壁を越えたベルギーの軌跡〜奇跡のヒナたちの今〜

「動かない鳥」として知られ、その鋭い眼差しと時折見せる愛らしい仕草で私たちを魅了するハシビロコウ。動物園でも大人気の彼らですが、実は「世界で最も繁殖が難しい鳥」の一つであることをご存知でしょうか?

今回は、そんなハシビロコウの繁殖において、世界で初めて2羽のヒナを孵すという歴史的快挙を成し遂げたベルギーの動物園「Pairi Daiza(ペリダイザ)」の軌跡と、大切に育てられたヒナたちの現在についてご紹介します。

目次

ヨーロッパ最高の動物園「Pairi Daiza(ペリダイザ)」とは?

皆さまは、ベルギーにある「Pairi Daiza」という動物園をご存知でしょうか? ヨーロッパの名だたる動物園を抑え、幾度となく「ヨーロッパ最高の動物園(Best Zoo in Europe)」に選出されている、世界有数の美しいパークです。

実はこの動物園、1994年に「パラディシオ(Parc Paradisio)」という名前の鳥類専用パークとして開園した歴史を持ちます。そのため鳥類の生態や飼育に関する専門知識は世界トップクラス。ヨーロッパにおける「種の保存の最重要拠点」として、開園して間もない初期の頃からハシビロコウを迎え入れ、長年にわたる繁殖計画をスタートさせていました。

Pairi Daiza動物園の入口ゲートの様子

ハシビロコウの繁殖はなぜ難しい?立ちはだかる「相性」の壁

絶滅の危機に瀕しているハシビロコウですが、現在ヨーロッパ圏の動物園で飼育されているのは、全体でわずか8羽ほどしかいません。それほどまでに、ハシビロコウの飼育と繁殖は困難を極めます。

最大の壁は、彼らの「性格」と「相性」です。 野生のハシビロコウは非常に広大な縄張りを持ち、繁殖期以外は徹底した単独行動を好みます。とても神経質で、相性が合わない相手には鋭い大きなクチバシで激しく攻撃してしまうのです。

Pairi Daizaでも、過去には別のペアリングで激しい闘争が起きてしまい、命の危険を避けるためにすぐさま引き離さなければならないという胸の痛む失敗がありました。「オスとメスを同じ空間に同居させる」こと自体が、命がけの挑戦だったのです。

ハシビロコウの繁殖に向けた驚きの工夫!人工の「雨季」と狩り

相性の壁を越え、彼らの野生の繁殖本能を呼び覚ますため、Pairi Daizaのスタッフは知恵を絞り、徹底した「環境の再現」を行いました。

ハシビロコウが繁殖を始めるのは、故郷のアフリカに「雨季」が訪れた時です。 そこで飼育チームは、展示場にスプリンクラーを設置して人工的に「大雨」を降らせました。湿度や降水量を緻密にコントロールし、ベルギーにいながらアフリカの雨季を疑似体験させたのです。

さらに、食事にも工夫を凝らしました。ただ魚を与えるのではなく、浅瀬に生きた魚を放ち、野生本来の「狩り」のスイッチを入れることで、彼らの生命力と繁殖への意欲を高めていきました。

Pairi Daizaで飼育されているハシビロコウの様子(撮影: 2015年8月6日, Author: Chatsam, Source: Wikipedia Commons)

【世界初】ハシビロコウのヒナが誕生!2008年の奇跡

環境が整っても、気性の荒い彼らから目を離すことはできません。 アシやパピルスで隠れ家となる視覚的な死角を作り、互いのストレスを減らした上で、飼育員たちは24時間体制でモニター越しに監視を続けました。関係者の記録には「少しでも攻撃のサインが見えれば、走って止めに入らなければならない、薄いガラスを扱うような緊張感だった」と残されています。

そして迎えた2008年7月。数年にわたる並々ならぬ努力の末、ついに歴史的な瞬間が訪れます。 世界で初めて「アブー(Abou)」と「マルクーブ(Marcoub)」という、2羽のハシビロコウのヒナが誕生したのです。

卵から孵ったばかりの繊細な命を守り抜くため、この2羽は飼育員さんたちが親代わりとなる「人工育雛(人の手で育てること)」によって、大切に育て上げられました。

↑こちらが、ネット上に唯一存在する写真です。出典はZooChatsと少し怪しいですが、当時はSNSが発達する前なので唯一の情報源です。当時のEAZAの紙媒体の資料には写真が残っているかもしれませんが、少なくともネット上には写真はありませんでした。あくまでURLに基づく引用、という形で転記させていただいています。

あのヒナたちは今?アブーとマルクーブの現在

あれから十数年。手塩にかけて育てられた2羽のヒナは立派に成長し、それぞれの道を歩んでいます。

イギリスへ渡ったメスの「アブー」

メスのアブーは現在、イギリスの「エクスムーア動物園」へとお引越しをしました。これは、ヨーロッパ圏内でハシビロコウの血統を未来へ繋ぐための、新しいパートナー探しの旅です。

新居で元気に暮らすオスの「マルクーブ」

一方、オスのマルクーブは今も生まれ故郷のPairi Daizaで暮らしています。嬉しいことに、2026年に入ってから新しく完成した専用の屋外展示場へお引越しをしたそうです。Instagramの投稿では、広々とした真新しい環境で、のびのびと羽を伸ばしている姿を見る事ができます。

ハシビロコウがいる世界の動物園
「アブーやマルクーブ以外のハシビロコウたちは、海外のどこで暮らしているの?」と気になった方もいらっしゃるかもしれません。絶滅が危惧される彼らを大切に飼育し、種の保存に取り組む世界の動物園を一覧にしてみました。遠い異国の地で暮らすハシビロコウたちに、一緒に思いを馳せてみませんか?

おわりに:奇跡の鳥たちの未来を願って

ハシビロコウの繁殖という高い壁を越えた、ベルギー「Pairi Daiza」の情熱と愛情の物語。 遠く離れた日本からも、新しい環境で過ごすアブーやマルクーブの幸せと、命のバトンがこれからも繋がっていくことをそっと見守っていきたいですね。

いつか私も愛用のカメラを片手にベルギーを訪れ、彼らの素晴らしい姿を直接捉える日が来ることを夢見ています。

繁殖に向けた取り組み
ペリダイザでの奇跡の物語、いかがでしたか?実は世界を見渡すと、この最も気難しい鳥の繁殖に並々ならぬ情熱を注いできた動物園のドラマが他にも隠されています。生命誕生の歴史と、現在進行形の繁殖への挑戦をひとつの記事にまとめました。もっと深く知りたい方は、ぜひこちらもご覧ください。

ハシビロコウに会いに行こう!
奇跡の鳥たちのストーリーを読んで、「今すぐハシビロコウに会いたい!」と思われた方も多いはず。嬉しいことに、日本国内でも彼らに出会える動物園があります。上野動物園の弁天門近くで暮らす4羽の個性豊かな姿や、2026年に那須へ帰還して話題になったボンゴなど、国内の見どころを詳しくまとめました。次の休日はカメラを持ってお出かけしてみませんか?

参考文献・引用元

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この記事を書いた人

ハシビロコウを追い続ける、一児のパパ。出張や家族旅行の合間に各地の動物園を巡るのがマイルール。 2025年には息子を連れてウガンダへ野生観察に行きました。 イベント情報から海外情報まで、幅広いハシビロコウについての情報を発信します。

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