クラッタリングとは?くちばしを鳴らす意味と理由|ハシビロコウ・コウノトリ・カラスの例

クラッタリングとは、鳥が上下のくちばしを素早く打ち合わせて、「カタカタ」「カラカラ」と音を鳴らす行動のことです。声の代わりに使うコミュニケーションの方法で、コウノトリの仲間やハシビロコウがよく知られています。

「動かない鳥」として有名なハシビロコウも、実はこの音で、まわりの仲間にちゃんと気持ちを伝えているんです。この記事では、クラッタリングの基本から、私が動物園やハシビロコウのふるさとウガンダで実際に見たクラッタリングまでをご紹介します。

目次

クラッタリングとは?くちばしで鳴らす「声の代わり」

クラッタリングの音は、拍子木を素早く打ち鳴らしたような、乾いた硬い響きです。長く大きなくちばしを持つ鳥だからこそ鳴らせる、いわば「生まれつきの打楽器」といえるかもしれません。

代表的なのは、国の特別天然記念物にもなっているコウノトリです。コウノトリは大人になるとほとんど鳴き声を出さず、その代わりにクラッタリングで仲間とやりとりします。ハシビロコウも同じように、ふだんはほとんど声を出さない鳥です。

クラッタリングの意味は、ひとつではありません。

  • あいさつ・親しみの表現:つがいの相手や仲の良い相手に向けて
  • 威嚇(いかく):なわばりに入ってきた相手に「ここから出て行け」と警告する
  • 興奮:気分が盛り上がったときに

ミニコラム:気まずいときもクラッタリング?

福井県のコウノトリ飼育記録には、思わずくすっと笑ってしまう観察が残っています。オスが何かを見つけたようにフェンスへかけ寄り、メスもあわてて後を追ったのに、そこには何もなかった……。その気まずい空気を、2羽はクラッタリングでごまかしたように見えたそうです。人間の照れかくしに似た使い方もあるのかもしれませんね。

カラスもクラッタリングをする?

くちばしを打ち鳴らす行動は、実はカラスの仲間でも見つかっています。2024年には、ノルウェーの学術雑誌で、ヨーロッパなどにすむズキンガラスが仲間とけんかする場面でくちばしを鳴らす様子が、初めて記録されました。日本でもおなじみのハシボソガラスでも、争いの中でくちばしを鳴らすことがあると報告されています。ただし、カラスの場合はめったに見られない珍しい行動で、コウノトリやハシビロコウのように、ふだんの会話の手段として使っているわけではないようです。

なぜ「鳴く」のではなく「叩く」のか

多くの鳥は声でコミュニケーションをとりますが、クラッタリングを使う鳥たちには共通点があります。それは、「とても大きなくちばしを持っている」こと、そして「じっと待ち伏せして獲物をとる」ことです。

声を出すと、敵や獲物に自分の居場所を知られてしまうおそれがあります。でも、くちばしを打ち鳴らす音なら、必要なときだけ、伝えたい相手に届けることができます。ハシビロコウにとってクラッタリングは、まわりの景色にとけこんで静かにしたまま、仲間と「会話」するための、進化が生んだ工夫なのかもしれません。

ハシビロコウのクラッタリング:管理人の観察記

ここからは、私がこれまで各地でハシビロコウを見てきて感じたことです。研究で確かめられたことではありませんが、通うたびに「あれ?」と気づかされる場面がありました。

相手によって音がちがう?

飼育員さんが近くに来たとき、ハシビロコウがやさしく呼びかけるように「カタカタ」と鳴らすことがあります。一方、となりの放飼場にいる別のハシビロコウに向けたクラッタリングは、音の勢いもテンポも明らかにちがっていて、どこか「威張っている」ように聞こえるんです。同じクラッタリングでも、相手や気持ちによって使い分けているように感じます。

親しみのサインは「お辞儀」とセット

親しみをこめたクラッタリングのときは、首を少し振りながらお辞儀をする動きとセットになっていることが多い気がします。ハシビロコウのお辞儀にはあいさつの意味があるとされていて、音としぐさを組み合わせて気持ちを伝えているのかもしれません。

上野動物園では「お隣さん」とのやりとりも

上野動物園は放飼場どうしの距離が近いので、となりのハシビロコウに向けたクラッタリングをときどき見かけます。4羽それぞれの性格のちがいも知っておくと、「今のは何を伝えたかったんだろう?」と想像しながら見られて、観察がもっと楽しくなりますよ。

ウガンダでSushiと「会話」した日

いちばん忘れられないのは、ウガンダのUWEC(ウガンダ野生生物保護教育センター)で、ハシビロコウの「Sushi」のケージに入らせてもらったときのことです。くちばしの代わりに体の前で手をたたいてみると、Sushiがクラッタリングで返事をしてくれたんです。たまたまだったのかもしれません。それでも、あの瞬間は、たしかに言葉を交わしたような気がしました。

鳥の「言葉」の研究から見たクラッタリング

鳥類学者・鈴木俊貴先生の本『僕には鳥の言葉がわかる』では、シジュウカラが鳴き声を「単語」として使い分け、さらにそれを組み合わせて「文」まで作っていることが紹介されています。「鳥はただ気持ちのままに鳴いているだけ」という、それまでの常識をくつがえした研究です。

では、ハシビロコウのクラッタリングはどうでしょうか。意味ごとに使い分けているのかどうかは、まだくわしく研究されていません。わかっているのは、クラッタリングがおもに巣でのあいさつや、相手に自分をアピールする行動(ディスプレイ)に使われていて、親鳥もヒナも行うということ。そして、無口なハシビロコウも、実は声を出すことがあるということです。エサをねだるヒナは、人のしゃっくりにそっくりな声で鳴くそうです。また、アピール中の大人のハシビロコウが、牛のような「モー」という低い声を出すことも記録されています。

もしかすると、私たちが「カタカタ」とひとまとめにしている音の中に、「こんにちは、今日も美しいね」といった細やかな気持ちがこめられているのかもしれません。クラッタリングの「リズムの法則」は、まだ誰にも解き明かされていません。動物園で音の勢いやテンポのちがいに気づいたあなたが、最初の発見者になれるかもしれませんよ。

動物園でクラッタリングを聞くコツ

  • 飼育員さんが近くに来るタイミングをねらう:やさしく呼びかけるようなクラッタリングが聞けることがあります
  • となりどうしのやりとりに注目する:放飼場が近い動物園では、勢いのある威嚇のクラッタリングに出会えることも
  • 音としぐさをセットで見る:お辞儀や首の動きもあわせて見ると、何を伝えたいのか想像しやすくなります
  • テンポや強さに耳をすます:音のちがいに気づけるようになると、観察がぐっと楽しくなります

まとめ:「動かない鳥」は、実はおしゃべりかもしれない

ハシビロコウが何時間も動かずにじっとしているとき、彼らは何を考えているのでしょうか。私たちはハシビロコウを「静かな鳥」だと思いこんでいますが、鳥たちが言葉を持つことがわかってきた今、その沈黙は、次の「会話」に向けてじっくり準備している時間なのかもしれません。

動物園でハシビロコウが急にクラッタリングを始めたら、それは沈黙を破って、誰かに何かを語りかけている瞬間です。ぜひ、そのリズムに耳をすませてみてください。

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引用・参考文献

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この記事を書いた人

ハシビロコウを追い続ける、一児のパパ。出張や家族旅行の合間に各地の動物園を巡るのがマイルール。 2025年には息子を連れてウガンダへ野生観察に行きました。 イベント情報から海外情報まで、幅広いハシビロコウについての情報を発信します。

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