2026年4月27日にブログを立ち上げました。ハシビロコウに関する情報発信をしていきますので、よろしくお願いします!

ハシビロコウと人類の「適切な距離感」とは?ウガンダの湿地から学ぶエコツーリズムと共生の知恵

マバンバ湿地の手漕ぎボート

「動かない鳥」として日本の動物園で絶大な人気を誇るハシビロコウ。しかし、彼らの故郷アフリカ・ウガンダの湿地では、彼らは単なるアイドルではありません。時に恐れられ、時に生活を支える、人間社会と密接に関わる「特別な存在」です。

昨年、私が実際にウガンダの湿地を訪れて肌で感じた空気感と、最新の論文が示す「人間とハシビロコウの共生」のリアルを紐解きます。

目次

「不吉の予兆」と呼ばれた時代

ウガンダのビクトリア湖周辺に広がる湿地帯。ここで漁を営む人々にとって、ハシビロコウは古くから複雑な感情を向けられてきました。

鳥類と人間の文化的関わりを研究する「民族鳥類学」の視点で見ると、興味深い事実が浮かび上がります。Maclean(2003)らの調査によれば、現地の漁師の間では、漁の最中にハシビロコウに出会うと「その日は一匹も魚が獲れなくなる」という迷信が語り継がれてきました。あの鋭い眼光で獲物を狙い、微動だにしない姿は、漁師にとって自分の獲物を横取りする、あるいは不吉な報せをもたらす精霊のように映っていたのです。

こうした迷信は、かつてはハシビロコウが生息地を追われる要因の一つとなっていました。しかし、この関係を劇的に変えたのが「エコツーリズム」の普及です。

漁師から「守護者」への転換と、10ドルの重み

現在、マバンバ湿地などで活躍するバードガイドの多くは、かつてその地で漁をしていた人々です。それだけではありません。驚くべきことに、かつてペット貿易や食用などのためにハシビロコウを狩猟・密猟していたコミュニティの人々も、今やこの活動に深く関わっています。

この劇的な変化を主導したのが、現地の環境NGO「NatureUganda」や、地域主導の団体「Shoebill-Watch Uganda」です。彼らは、かつて鳥を脅かす存在だった地元住民を排除するのではなく、彼らの圧倒的な「湿地への知恵と鳥を探すスキル」を逆手に取り、エコツアーの専属ガイドや、ハシビロコウの巣を24時間体制で見守る「巣の保護員(ガーディアン)」として雇用したのです。私が現地で出会ったガイドは、照れくさそうにこう話してくれました。 「昔は不吉だと思って避けていた鳥が、今では俺の大切な仕事のパートナーになったんだ」

Buckley(2010)の研究が示す通り、希少種に「経済的価値」が見出されることは、保全において最も強力な動機付けとなります。例えば、マバンバでのハシビロコウ・ツアーにおいて、ガイドが受け取る半日のチップの目安は約10ドル(約1,500円〜)。これは、現地の一般的な労働者の2-3日分の給料に匹敵する、極めて大きな収入です。
(参考: ウガンダのGNIは1日あたり3-4ドル、漁師は良い日で5-8ドルの収入になると呼ばれている)

「守る方が、自分たちの生活が豊かになる」 この実感こそが、かつての迷信を塗り替え、地域住民をハシビロコウの最強の守護者へと変身させたのです。

科学が教える「愛ゆえの距離」

しかし、私たちが彼らを「宝」として大切に想うからこそ、忘れてはならない視点があります。それは、人間が近づくことによる鳥への心理的負荷です。

Samiguel(2016)の研究では、観光ボートがハシビロコウに接近した際のストレスホルモン(コルチゾール)値の変動を測定しています。ボートが20〜50m以内に近づくと、彼らの心拍数は上昇し、採食を中断して逃避行動の準備に入ることが科学的に証明されています。

私たちが現地を訪れた際、ガイドが鳥のわずかな警戒信号(首を伸ばす、嘴を震わせるなど)を察知してボートを止めるのは、こうした科学的根拠に基づいた「適切な距離感」を守るためです。このガイドラインを守ることこそが、観光と保全を両立させる唯一の道なのです。

持続可能な「推し活」のために

ウガンダの湿地でガイドが遠くの茂みを指差し、「あそこに俺たちの相棒がいるよ」と誇らしげに笑う姿。そこには、古い迷信を乗り越え、新しい共生の形を見出した人々の誇りがありました。

私たちがハシビロコウという鳥を未来へと繋いでいくために。それは、彼らの生態を深く理解し、現地の人々の暮らしに想いを馳せ、そして何より、彼らが静かに暮らせる「ちょうどいい距離」を守り続けること。

他のエリア、ザンビアにおける保護活動の様子にも興味がある方はこちらの記事もご覧ください:

次に彼らと目が合った時、その沈黙の裏側にある長い歴史と、彼らを守ろうとする人々の営みを、ふと思い出していただけたら幸いです。

参考文献

  • Maclean, I. M., et al. (2003). Social and economic use of wetland resources in Uganda.
  • Buckley, R. (2010). Conservation Tourism. CAB International.
  • Samiguel, R. (2016). Impacts of Bird-watching Tourism on the Behavior of the Shoebill.
  • IUCN SSC Shoebill Specialist Group Conservation Strategy.
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この記事を書いた人

ハシビロコウを追い続ける、外資系企業に勤める一児のパパ。出張や家族旅行の合間に各地の動物園を巡るのがマイルール。 2025年には息子を連れてウガンダへ野生観察に行きました。 イベント情報から海外情報まで、幅広いハシビロコウについての情報を発信します。

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