動物園でじっと動かない姿を見ていると、「この子、ちゃんとごはんを食べているのかな?」と気になりませんか?ハシビロコウの好物といえば「ハイギョ」が有名です。ところが実は、住んでいる地域によって主食が変わり、ザンビアでは食べた獲物の7割がナマズだったという調査もあります。
この記事では、野生のハシビロコウを調べた論文をもとに、食べているもの、狩りの方法と成功率、ヒナへのごはんのあげ方、そして日本の動物園でのごはん事情までまとめました。
まずは結論:ハシビロコウの食べ物
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な食べ物 | 大きな魚(ハイギョ、ナマズ、ポリプテルス、ティラピアなど) |
| たまに食べるもの | カエル、水辺のヘビ、オオトカゲ、水鳥のヒナ、ワニの子ども |
| 獲物の大きさ | 平均41.8cm、最大99cm(タンザニアの調査) |
| 狩り方 | じっと待つ「待ち伏せ」と、ゆっくり歩く「忍び歩き」。最後は体ごと倒れ込む |
| どれくらい捕れる? | ザンビアでは約8時間に1匹 |
| 動物園のごはん | ニジマス、アユ、アマゴ、コイ、ドジョウなど(園によって違います) |
野生のハシビロコウは何を食べている?
野生のハシビロコウは、ほとんど魚だけを食べて暮らしています。ただし「どの魚が主食か」は、住んでいる湿地によって大きく違います。

調査地によって主食が違う
| 調査地 | いちばん多い獲物 | 調査 |
|---|---|---|
| ザンビア・バングウェウル湿地 | ナマズの仲間(クラリアス)が獲物の71% | Mullers & Amar 2015、Ostrich |
| タンザニア西部・マラガラシ湿地 | アフリカハイギョが獲物の60%超 | John & Lee 2019、Tanzania Journal of Science |
バングウェウル湿地は、当ブログでも紹介しているアフリカン・パークスの巣の保護プログラムの舞台です。ここで約170時間観察した調査では、捕まえた獲物の7割がナマズの仲間でした。一方、タンザニアの調査では獲物は2種類の魚だけで、その6割以上がハイギョでした。
つまり「ハシビロコウ=ハイギョ」というより、「その湿地で捕りやすい大きな魚を食べている」というほうが正確です。
とはいえ、「ハイギョが好物」という説明がまちがいというわけではありません。過去の研究をまとめたレビューでも、ハイギョがいちばん好まれる獲物とされています(Loftie-Eaton 2016)。
よく食べる魚
- アフリカハイギョ:エラだけでなく肺でも呼吸する魚。息を吸いに水面へ上がってくる瞬間が、ハシビロコウのチャンスです
- ナマズの仲間(クラリアス):ザンビアでの主食
- ポリプテルス:古代魚とも呼ばれる魚。千葉市動物公園の解説でも、ハイギョと並んで挙げられています(千葉市)
- ティラピア:サンディエゴ動物園の解説でも、ハイギョ・ナマズと並ぶ「よく食べるもの」です(San Diego Zoo)
魚以外にも、こんなものを食べることも
カエル、水辺のヘビ、オオトカゲ、小さなカメ、水鳥のヒナ、ネズミなども食べることがあります。海外の記事でよく見る「ワニの赤ちゃんも食べる」という話も本当です。ただしサンディエゴ動物園も「ワニや水鳥のヒナはあまり多くない」と書いているように、あくまで「たまに」です。
獲物はどれくらい大きい?
タンザニアの調査では、獲物の魚は平均41.8cm、小さいもので11cm、大きいものは99cmもありました。60cmを超える魚はクチバシでいくつかに切り分け、何回かに分けて飲み込んだそうです。食べ終えるまでの時間は2〜30分(平均約7分)でした(John & Lee 2019)。
あの大きなクチバシの縁は鋭く、獲物の頭を落としてから飲み込むことも多いようです(Animal Diversity Web)。クチバシのつくりはこちらの記事で詳しく紹介しています。

狩りの方法:じっと待って、体ごと倒れ込む
ハシビロコウが「動かない」のは、狩りのためです。獲物が水面に現れるのを、ひたすら待ち続けます。
2つの狩りスタイル
- 待ち伏せ(スタンド・アンド・ウェイト):水辺や浮き草の上でじっと立ち、獲物が来るのを待つ
- 忍び歩き:浅瀬をゆっくり歩きながら獲物を探す。タンザニアの調査では、洪水で水位が上がるとこちらが増えました
「コラプス」と呼ばれる一撃
獲物を見つけると、ハシビロコウは翼を広げ、体重をかけて体ごと水中へ倒れ込みます。この動きは「コラプス(collapse=崩れ落ちる)」と呼ばれ、1979年の研究で名前がつけられました。あっという間の動きで、バーンズ氏の解説では「ふつうは1秒にも満たない」とされています(Barnes 2000)。
そのあとは、クチバシを左右に動かして一緒にくわえた水草を振り落とし、魚を頭から飲み込みます(San Diego Zoo)。
なぜ「息継ぎ」する魚が狙われるのか
ハシビロコウが暮らす湿地には、酸素の少ない水域があります。そうした場所では魚が息を吸いに水面へ上がる回数が増えるため、ハシビロコウはそういう水域を好んで狩りをします(Barnes 2000)。肺で呼吸するハイギョやポリプテルスが好物なのも、このためだと考えられます。
また「コラプス」は深い水では使えないため、狩りの場は主に浅瀬です。一度倒れ込むと、すぐに次の一撃はできません(Animal Diversity Web)。
狩りの成功率と「8時間に1匹」
あれだけじっと待って、どれくらい捕れるのでしょうか。実はこれも、場所によってまったく違います。
| ザンビア(バングウェウル) | タンザニア(マラガラシ) | |
|---|---|---|
| 一撃の成功率 | 繁殖期以外:70回中16回(約23%) | 317回中295回(93%) |
| 獲物を捕るペース | 平均で約8.3時間に1匹 | (記載なし) |
| その他 | 時間の85%は立っている・羽繕いなど、歩くのは14%、飛ぶのは1% | 捕った獲物の47%をサンショクウミワシに横取りされた |
| 出典 | Mullers & Amar 2015 | John & Lee 2019 |
ザンビアでは、一日をほとんど待ち続けて、ようやく1匹。タンザニアでは一撃の成功率は9割を超えていますが、せっかく捕った獲物の半分近くをサンショクウミワシ(魚を食べる大型のワシ)に奪われていました。どちらの場所でも、楽な暮らしではなさそうです。
じっと動かない理由は、こちらの記事でも詳しく解説しています。

ヒナのごはんと、クチバシで運ぶ「水」
子育て中のハシビロコウは、飲み込んだ獲物を吐き戻してヒナに与えます。
- 給餌の回数:少なくとも1日1〜3回(Animal Diversity Web)。サンディエゴ動物園の解説では、はじめは1日3匹ほど、大きくなると1日5〜6回に増えるとされています
- 食べ方の変化:生後1か月ほどはどろどろにしたものを、そのあとは獲物を巣に置いて自分で食べさせる(San Diego Zoo)
- ザンビアでの観察:親が巣でナマズをヒナに与える様子が記録されています(Mullers & Reid 2014)
クチバシいっぱいの水で「打ち水」
赤道付近の湿地は日差しが強烈です。そこで親鳥は、大きなクチバシで水をすくって運び、卵やヒナにかけて冷やします(Animal Diversity Web、Mullers 2014)。卵を冷やすために、1日4〜5回水を運ぶこともあるそうです(San Diego Zoo)。
「魚を捕る道具」に見えるあのクチバシは、子育てでは「バケツ」にもなるのです。
ヒナの成長や、ザンビアでの巣の保護の取り組みは、こちらの記事で詳しく紹介しています。


日本の動物園では何を食べている?園ごとの餌と給餌タイム
動物園では、野生と同じハイギョを用意するのは難しいため、ニジマスやアユ、コイ、ドジョウなどの淡水魚が中心です。管理人が各園を訪れて確かめた情報や、シンポジウムでの発表をもとにまとめました。
| 施設 | 与えているもの | 見どころ |
|---|---|---|
| 上野動物園 | コイ(アサンテはコイを積極的に食べます) | 14時ごろが給餌タイム |
| 那須どうぶつ王国 | ニジマスを1日平均3〜4尾(ボンゴ) | 2026年5月に飼育員さんに伺いました |
| 掛川花鳥園 | 冷凍ニジマスやコイ、アマゴを1日2回(ふたば) | 魚のエラにビタミン剤などを仕込んで栄養を補給 |
| 神戸どうぶつ王国 | 繁殖期の前などに、池に生きたナマズやドジョウを放す | 好きなタイミングで狩りができる |
| 松江フォーゲルパーク | アマゴやニジマス、地元・安来産のドジョウ(フドウ) | 水槽のドジョウを狙う姿が見られることも |
| 高知県立のいち動物公園 | アユやニジマス(ささは1日3回、合計4尾) | 池のドジョウを捕まえる姿も。カシシはドジョウ捕りの名人 |
| 千葉市動物公園 | 生きたコイ(千葉市公式) | 2028年春ごろまで展示休止中 |
めっちゃおもろい動物園(滋賀)のはっちゃんのごはんは、確認できしだい追記します。

「1日3〜4尾」は多い?少ない?
那須のボンゴはニジマスを1日平均3〜4尾、のいちのささはアユやニジマスを1日に4尾。体重5kg前後の大きな鳥にしては、意外と控えめに感じますよね。
でも野生では「8時間に1匹」という調査もあるように、もともとたくさん食べなくても暮らせる鳥なのかもしれません。サンディエゴ動物園によれば、4日以上食べなくても生きられるそうです。
食事シーンを見るコツ
- 上野動物園は14時ごろが狙い目。給餌タイムに合わせて行くと、動く姿が見られるかもしれません
- 池や水槽に生きた魚がいる園では、水辺で「じっと水面を見ている」ときがチャンス。本物の「待ち伏せ」と、体ごと倒れ込む一撃が見られるかもしれません
- そのほかの園は給餌時間を公開していないところが多いので、現地の掲示や公式SNSを確認するのが確実です
各園の見どころは、こちらのガイド記事でまとめています。

よくある質問
Q. ハシビロコウの好物はハイギョだけ?
A. いいえ。ハイギョが好物なのは確かですが、ザンビアでは獲物の7割がナマズの仲間でした。その湿地で捕りやすい大きな魚を食べています。
Q. ワニを食べるって本当?
A. ワニの子どもを食べることはあります。ただしめったにない「たまの獲物」で、主食はあくまで魚です。
Q. 1日にどれくらい食べるの?
A. 那須どうぶつ王国のボンゴはニジマスを1日平均3〜4尾、のいち動物公園のささはアユやニジマスを1日に計4尾食べています。
Q. 動物園でごはんの時間はある?
A. 上野動物園では14時ごろが給餌タイムです。そのほかの園は公開していないことが多いので、現地の掲示や公式SNSを確認してみてください。
まとめ
- 野生のハシビロコウはほぼ魚食。ハイギョが好物だが、ザンビアではナマズが7割など地域差が大きい
- 獲物は平均40cm前後と大きい。大きいものは切り分けて食べる
- じっと待ち、体ごと倒れ込む「コラプス」で捕まえる。ザンビアでは約8時間に1匹
- 子育てでは吐き戻して与え、クチバシで運んだ水でヒナを冷やす
- 日本の動物園ではニジマスやアユ、コイ、ドジョウなど。池の魚を自分で捕まえる姿が見られる園もある
ハシビロコウは飛べる?
動物園ではじっと立っている姿ばかりですが、翼を広げると230〜260cm。首を縮めた飛び方や、GPS調査でわかった野生での移動距離、国内で飛ぶ姿が見られる動物園を紹介しています。

人工衛星とGPSで分かった野生の暮らし
ザンビアの湿地で野生のハシビロコウにGPSをつけて追跡した研究から、どれくらい動くのか、水の増減でどう居場所を変えるのかを紹介しています。

参考文献
- Mullers & Amar (2015) Shoebill Balaeniceps rex foraging behaviour in the Bangweulu Wetlands, Zambia. Ostrich 86(1–2): 113–118.(要旨)
- John & Lee (2019) Kleptoparasitism of Shoebills Balaeniceps rex by African Fish Eagles Haliaeetus vocifer in Western Tanzania. Tanzania Journal of Science 45(2): 131–143.(全文PDF)
- Loftie-Eaton (2016) Biodiversity Observations 7.58.(PDF)
- Mullers & Reid (2014) Ornithological Observations 5.(PDF)
- Mullers (2014) African Birdlife.(記事)
- Barnes (2000) Africa – Birds & Birding.(記事)
- Animal Diversity Web「Balaeniceps rex」(ページ)
- San Diego Zoo「Shoebill」(ページ)
- 千葉市「ハシビロコウ」(ページ)
- 当ブログの取材記事:上野動物園、那須どうぶつ王国、掛川花鳥園(第2回シンポジウムでの発表)、神戸どうぶつ王国、松江フォーゲルパーク(フドウ)、のいち動物公園(ささ)

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